朝から秋田県地方大雨警報が発令され、午前中は開催が心配されるほど川の水が増水した。しかし、午後からは小雨になり、夕方には雨が上がる。そのため、雲は低く大玉の観覧は厳しそうだが、大会開催は予定通り実行されることになり、ほっとする。
この日は、仕事的にも忙しく、僕が会場の到着は午後7時を過ぎていた。協和七夕花火の会場は、協和宇津野地区だから、大曲から車で約45分だ。
大会関係者に挨拶を済ませた後、本部テント前の審査員ブースに到着。早速、本日の第2回全国女流花火作家競技大会の審査の打ち合わせに入る。
今年の審査員は以下の通り。
小西 亨一郎(審査員長・花火研究家・大曲)
工藤真紀子(花火鑑賞士・秋田市)
金子芙巳(花火鑑賞士・仙台市)
高野正子(花火鑑賞士・大仙市)
豊島義春(火師・大仙市協和)
今年の審査員は、いずれも、花火をしっかりと鑑賞できる方々にお願いした。女流花火競技会であるだけに、女性の花火鑑賞士を3名審査員に加えた。工藤真紀子さんは、昨年に引き続き依頼する。
地方の花火大会の運営は、実行委員会の方々の資金集めによって大会が成り立つ。この大会の実行委員会は、協和・宇津野地区の住民で構成されており、この花火を通して地域の活性化に取り組んでいる。「子供に夢を!誇れる郷土を!地域に活力を!」をスローガンに、始まった32年前からのままだ。ブレない地域づくりを実践し、残余金で幼稚園の慰問花火を実践している。震災後からは、岩手県、宮城県の沿岸の幼稚園を訪問している。今年は、岩手県大槌町だそうだ。そうした取り組みが評価され、地域を上げて彼らをバックアップしている。
今年の協和七夕花火は、3部構成。協和七夕花火大会は、十分な保安距離と打ち上げ現場が確保できることから、大玉(7号以上)が多い。第2部(全国女流花火作家競技大会)のプログラムを除くと、43プログラムの内、7割を大玉が占めていることだ。今年の大玉占拠率は、74%と極めて高い。ただ、例年2発の二尺玉打ち上げが、フィナーレの1発になったのは、残念ではあったが、予算上のことでいたしかたない。
昨年の大会から、二尺玉やワイドスターマインなどの他に、目玉企画として全国女流花火作家によるコンクールを提案させていただき、俳句を玉名とし、その俳句の情景や思いを花火で表現するユニークな大会となった。
僕が策定した審査基準は、次の通りである。
(ここから)
審査要項
1、俳句の情景や思いを花火で表現されているのか。(俳句にマッチする花火なのかが重要=テーマ性が高いものであること)10点
2、花火に創意工夫が感じられるか。斬新性があり惹きつける花火なのか。5点
3、花火で、展開性や構成力を感じられるか。ストーリー性があるのか。5点
以上の点を考慮して、20点満点で採点。
なお、標準審査玉につきましては、審査員長が得点をつけ、その基準に基づいて、審査願う。
●安全性について
安全性のチェックにつきましては、審査員長だけが減点法でジャッジする。最終得点(100点満点)から、危険玉(下層発、星落下など)の程度に応じて、「マイナス○○点」とジャッジし、総合計を算出する。
(ここまで)
今年の第2回女流花火作家競技大会の結果は、次の通りである。
優勝 摂津万希子 (小松煙火工業・秋田県)
「天の川 らせん階段 駆けのぼる」
準優勝 今野真咲(北日本花火興業・秋田県)
「雪原に 陽の光差し 穏やかに」
第3位 尾崎真奈美(北陸火工・石川県)
今年から、優勝者には、大曲市長賞が授与された。今後、この大会をバックアップしていく姿勢を感じ取れた。ありがたいことである。こうした賞が授与されることで、参加花火作家にとっては、モチベーションが上がり、真剣に取り組むものと思われる。
今年の僕の評価する花火と気になった花火についてコメントする。
・「天の川 らせん階段 駆けのぼる」(摂津万希子)
俳句の情景を見事に花火で表現された秀作。俳句自体も、おもしろく、七夕に彦星に会いに行く織姫が、らせん階段を駆け上ってでも会いに行きたいという心情を詠める俳句で、女心を感じずにはいられなかった。
その句の「らせん階段 駆けのぼる」という主体的心情や情景を、時間差花火で「螺旋状」に上方に昇っていく花火で演出された。しかも、上下を制御して、上へと螺旋状に昇っていく構造は、最高の評価に値する。すべての「らせん花火」を見事上方に時間差で表現したアイディアと技術に敬意を表したい。また、天の川も、はっきりと細く和火で垂らし、その先には数点の星を輝かせる細工も、繊細だった。
・「雪原に 陽の光差し 穏やかに」(今野真咲)
「七夕の季節に冬の句か?」という思いもあるが、一発目の見事な雪原を表現された銀点滅芯銀さざなみ菊の鮮やかさが、その疑問を打ち消した。冬の晴れた雪原の銀世界をほうふつさせる美しさだった。そして、点滅芯を中心にバリエーションの富んだ温かな陽の光が差し込む情景を表現した花火だった。青白い太陽が差し込み、ステンドグラスが映える花火などが印象深い。そしてラストを連打で印象づける構成の巧さも光った。
・「ハンモック 体重増加で 枝が折れ」(尾崎真奈美)
体重増加という女性の悩みを自虐的ユーモアで詠んだ川柳的な俳句。夏バテどころか食欲旺盛で体重が増加していく。その様を、型物で太った豚(ブタ)で表現。笑いが漏れる。しかもハンモックのカタチも大きく伸びていく変化を表現していた。そして、方向先の変化で木の枝がポキリと折れる様を表現する。会場からも笑いがおきる花火だった。豚の型物花火は、2発目だけがはっきりとわかったが、それ以外は型物花火の難しさでわからなかったが、前半でしっかりと一発見せると、その意をくみ、心の目でその起こり得ただろう事象を理解させる力を持つ。ユーモラスなストーリーの花火だった。
・「七夕に 紅く煌めく ルビーかな」(根岸由き・埼玉)
垂れ下がる点滅系の七夕(天の川)の美しさ、7月の誕生石のルビーの美しさ、さらには、変色芯入りの点滅時間差変化と実に手の込んだ花火だった。特にルビーの宝石の表現は、六角形のルビーリングがごとき精巧でかつルビー色の美しさと点滅の見事さ。「点滅の根岸」の真髄を見せつけた花火で、僕自身は高い評価の通受けする花火だった。
当日の表彰式の審査講評では、参加11名の女性花火作家の作品をすべて講評させていただいた。玉名を俳句にして、17文字の世界を女性らしい視点で、花火を演出するこのコンクールは、実にクリエーティヴで文学的でおもしろいものだ。そこには、女性らしい繊細さやエスプリがあり、作者の思いが集約されている。
優勝者のあいさつで、小松煙火工業の摂津万希子さんの言葉が印象的だった。彼女は、山口県の出身である。昔から花火好きの少女だった。その彼女が6年前に長野県湯田中の花火大会で小松煙火工業の「ランタン」を見て、小松忠信社長に「花火師になりたい」と懇願した根性ある女性である。昨年も「水睡蓮」を制作し、僕自身一目置く存在である。彼女の玉は、九州の八代の大会に出品されたほどである。その摂津万希子は、「小松煙火工業に入社以来5年間で、今日が一番うれしい。高い評価をいただいて、最高にうれしい」と言葉を結んだ。これから、彼女はますます伸びるに違いない。
男勝りのアメリカンスタイルのバイクを乗りこなすライダーでもあり、一児の母でもある。根性の座ったきりっとした顔つきの美人花火作家でもある。彼女の作品が、無性に見たくなった。
昨年の優勝者の信州煙火工業の千葉いつかさんとどこか似ている。「花火が好きでたまらない」「いい花火をつくりたい」そんな思いを十分に感じた。近年、素晴らしい女性花火作家が目立つようになってきた。この大会は、日頃スポットライトが当たらない女性花火作家に、思いっきりスポットライトを当て、輝いてもらおうと思う。そして、やる気ある花火作家として活躍してほしいと願う。
協和七夕花火は、今年も織姫星がごとく輝ける女性花火作家を創出した。彼女らは、自信をもってこれから仕事に研鑽していくものだろうと思う。
今年の協和七夕花火は、梅雨前線の影響もあり、雲が低く、大玉のほとんどは、雲の中であり残念ではあった。ラストの名物二尺玉の錦冠菊小割浮模様もクリアには、見えなかったが、震動や爆風を感ずるくらい、迫力満天だった。
協和七夕花火は、実行委員会の皆様やスタッフの熱意や一生懸命さが伝わってくる。、この地域に絶対に欠かせない花火大会に成長した。こうした「思い」がこの地域を活性化し、元気づけるものと信じる。