今井孝典さんのプロポーズ花火「舞台の裏側」 |
これで、春の新作花火コレクションは、18年間一度も本番中は、雨や雪とは皆無といった記録を更新した。これこそ、まさに「ミラクル」だ。
今日は、プライベート花火で、一世一代の勝負に出た花火鑑賞士の今井孝典さんのことを語りたい。
今井さんが新作花火コレクションのプライベート花火のHP告知が1月中旬に入っても、まだないことに痺れを切らして、大曲花火倶楽部に電話をかけてきた。1月20日のことである。その電話を受けたのは、新作の実行委員長でもあり、花火倶楽部の事務局も兼ねる挽野実之である。「新作花火コレクション当日にプロポーズをしようと思ってます」と。
その夜、挽野から僕に「企画担当よろしくお願いします」と丁重な電話をもらう。十分な予算の提示もされている。今井孝典?ああ、そういえば昨年の「花火鑑賞士の集い」で朝3時まで一緒に飲んでいた彼だなと思い出した。しかも、彼からは年賀状までいただいていた。「大曲の80回記念大会を見て、花火にのめりこみ始めた」方といった彼についての記憶まで思い出した。
早速、今井さんに電話をし、「僕と小松忠信クンとで、今井さんのプロポーズ花火をサポートいたします。あとで、今井さんに企画を提示したいんですが」とだけ話すと、「小西さんと小松さんが僕のためにやってくれるんですね、それだけでも光栄です」とありがたいご返事。今井さんが「なんとしても、花火でプロポーズしたいんです。よろしくお願いします。一度大曲に伺います」といった熱意のある話しぶりに、男気を感じ「おまかせください」と返事する。
花火倶楽部の役員会で、その報告すると、「本当に彼女がオーケーするのか?」とか「責任重いよ」などといった意見もでたが、今井さんがオーケーだとすれば、心配無用とのことで、了解をもらう。
そのとき、僕は一つの演出を提案する。それは、「プロポーズの言葉は、自分の言葉ですべき。だから今井さんがマイクを持ち、お立ち台の上で彼女に直接すること。その証人は、観衆の皆様というのはどう?」と提案。
「それは、おもしろいけど、よっぽどの度胸がないとできないよ」「とても、リスキー。もしアウトだったら、大恥をかくことになり、彼にも彼女にも配慮が欠けることになるのでは」といった慎重論も出る。
そこで、今井さんにも提案してみた。彼も驚き、「しばし考えさせてください」と返事。彼と大曲での事前打ち合わせの時、その回答をもらうことにした。
今井さんが大曲で打ち合わせをしたのは、大会1週間前の3月14日ホワイトデーの日。ホワイトデーのお返しの日に打ち合わせになったのは、実は僕と小松忠信の日程の都合でだ。今井さんは、彼女に「今日、仙台で会社の出張、ごめんね」といってきたらしい。あくまでも、本番まで彼女には、プロポーズ花火のことは隠しておく秘密事項なのだ。彼女には、「大曲の新作花火コレクションで会社の30周年花火でも打上げるから、ぜひ大曲まで一緒に来て欲しい」とお願いしたらしい。
まだ、お付き合いして一年たっていないらしいが、恋人として順調に愛を育んできたらしい。大曲の「弁天」で昼食を取りながらの打ち合わせ。彼は、ここでやっと覚悟を固め「自分の言葉でプロポーズします」と了解してくれた。
ただ、プライベート花火は、思いを込めた大玉の競演といったスタイルを崩すことはできない。小松が、「まず大玉花火を5発打上げましょう」と提案。要はフツーどおりのメッセージをナレーターに読ませ、5発という豪華なプライベート花火と思わせる。ここからが、サプライズ。観衆が上空の花火に夢中になっているときに、今井さんと彼女がお立ち台の上に。そこで今井さんがプロポーズの言葉をマイクを握り話すというシナリオに変更する。ここでは、今井さんに振るアドリブ能力にすぐれた司会業の小松さつきさんを起用することにした。
シナリオでは、今井さんがプロポーズし、彼女がOKの場合とNGの場合両方を用意した。もし、ダメの場合は、「ネバー・ギブアップ花火」として、成功の場合は、彼が用意したエンゲージリングを彼女に渡す儀式の後、彼が喜びの合図でスターマインを打上げるという2パターンを用意した。もちろん、スターマイン花火は1パターンだが。
その3月14日、僕と小松忠信と今井さんは、午前2時まで痛飲する。本番の成功を祈願して?
そして、迎えた当日。午後4時に今井さんだけを、スキー場ロッジに携帯電話で呼び出し、ナレーターの堀江さん、小松さつきさん、音響のヒモリさんと最終打ち合わせ。
第2ステージ終了後のプライベート花火PART2は、今井孝典オンステージ、つまり彼ひとりのための演出である。
いよいよ、その順番がきた。
今井さんと彼女をお立ち台に近い場所に移動させる。彼女は、不思議そうな顔して彼に寄り添っている。
今井さんのプライベート花火のナレーターが読むメッセージがスタート。
ねえ、ともちゃん。
この前、映画を見に行くとき、二人で寒空の夜道を歩いたね。
その時、いつごろから結婚を意識するようになったの?って話になったのを覚えているかな?
ともちゃんは、笑いながら、「んー段々とかな?」って言ってたね。
俺も聞かれたけど、「いつか話すよ」って答えなかったよね。
俺はね、最初の時から「きっとこの娘と結婚するんだろうな」って確信したんだよ。
だから、あの時「ずっとそばにいて」っていったでしょ。
それは、本当にそう思ってたからだったんだよ。
ともちゃんが、書き綴っているラブダイアリー。
それは、1年でできあがってしまうけど。
俺はね。二人でずっとずっとその先も、一緒に紡いでいきたいと思ってるんだよ。
この想いを、大好きな花火に託して、今、あなたに届けます。
5発の大玉割物が夜空に花開く。
小松さつきさんと今井さん、彼女がお立ち台に昇り、スポットライトを浴びせる。
会場がどよめく。小松さつきさんが、今井さんらを紹介し、宇都宮から来たことなど聞き出し、観衆をステージに注目させる。会場内もシーンとなる。そこで今井さんから彼女に伝えるメッセージがあるといって、今井さんにマイクを渡す。
今井さんのメッセージ
「ともちゃん、僕たちを見てくださってるすべての人たちの前で、約束し宣言します。
ともちゃんを世界で一番幸せにします。
結婚してください」
会場内から歓声と拍手。
彼女の返事が聞き取れない。一瞬焦る。小松さつきさんが聞き返す。「聞き取れましせんでした、もう一度朋子さん」「はい」と小さい声で答える彼女。僕らスタッフ、安堵感漂う。
会場内から再度、「おめでとう!」「お幸せに!」といった暖かい歓声が届く。
彼は、用意したエンゲージリングを渡す。感激で目がうるむ朋子さん。
そこで「会場の皆様、今、彼から彼女へエンゲージリングがはめられました。喜びの今井さんから、喜びの花火のプレゼントがあります、今井さん花火の点火合図を」の導きで、「ありがとう、それでは花火をプレゼントします。ファイアー!」の絶叫の中、ドリーム・カムトルーの曲に合わせ、スターマインが炸裂する。
婚約を祝うかのように、派手派手なテンポのよいスターマインで、何度もVサインが表現されていた。
会場祝福の嵐だった。彼らにとっては、生涯忘れえぬ花火になったことだろう。
ステージから彼女は降りれない状況だった。彼女は、あまりのうれしさとまさかのプロポーズに驚き、頭が真っ白になり、放心状態に陥ったらしい。「あまりに突然で、ただただびっくり。」ずっと放心状態が続き、夢の世界にいるようだったという。「花火の記憶は、恥ずかしいのですが、全くありません。」と話してくれた。
今井孝典さん、花塚朋子さん、おめでとう!
僕らも、陰ながら、この「プロポーズ大作戦」に加担できたこと、「花火が縁」で結ばれたこと、うれしく思う。こうして、「喜んでもらえたこと」これに尽きる。それにしても、上手くいって本当によかった、よかった。安堵感でいっぱいです。
翌日の秋田さきがけ新報の「ふきのとう」の欄(コラム)でも紹介されていた。