第4回全国女流花火作家競技大会(協和七夕花火)総評 |
協和七夕花火は、協和・宇津野地区住民有志がはじめた花火大会である。その趣旨やコンセプトは、第1回目から変わらない。「子供に夢を!誇れる郷土を!地域に活力を!」をスローガンに、協和七夕花火大会を宇津野地区有志が一生懸命に運営している大会である。今年で34回を数える。
地区挙げて資金を集め、またスポンサー集めに奔走する。その大会に今から4年前から、全国女流花火作家競技大会が目玉企画として立ち上げた。この女流花火作家競技大会を企画立案させていただいた経緯があり、この協和七夕花火には、深いかかわりを持つ。
また、34年前の第1回からこの花火大会に携わる豊島義春さんの熱き情熱を知るからこそ、さらに協力しなければという気にさせる。豊島さんは、花火師でもあり、彼には女流花火作家競技大会の審査もお願いしている。
今年は、心配された雨もなく、晴れ渡った絶好のコンディションとなった。
今回は、第4回全国女流花火作家競技大会について書いてみたい。
この全国女流花火作家競技大会は、俳句をテーマ(玉名)とし、4号玉10発、5号玉7発、計17発(俳句の17文字にちなむ)で、俳句の情景や思いを花火で表現するユニークな切り口の大会である。もちろん、音楽なしで、花火のリズムや音で、その情緒を連想させていく、すべての演出が花火だけという小玉17発による難しい競技会である。
審査要項は、シンプルに3項目とした。これで十分である。
1、テーマ性(俳句の情景や思いを花火で表現されているのか。俳句にマッチする花火なのかが重要)
2、技術力(花火に創意工夫が感じられるか。斬新性があり惹きつける花火なのか。)
3、構成力(花火で、展開性や構成力を感じられるか。ストーリー性があるのか。メリハリなど工夫があるか)
審査員は、女性花火鑑賞士2名(戸巻真紀子さん、最上谷由香さん)と花火師でもあり第1回大会(34年前)から協和七夕花火の尽力者の豊島義春さん、そして審査総括(審査委員長)として僕が務めた。
僕は表彰式で、競技講評にふれる前に、玉名(タイトル)が大事だということをお話しした。つまり俳句の出来不出来が大きく競技を左右するということだ。いかに構成や展開を練っているのか、俳句を詠むと見えてくる。
まず、俳句とは。ご存じのように季語を入れた5.7.5音の17文字の詩のことである。この17文字の中に季節感を表現する季語を入れ、その情景を詠むことなのだ。そしてすべてを語らず、考えさせる余韻を残すのが、良句と言われる。つまり、その余韻を花火で表現できたら、連歌の心がわかる、実に深い世界になるものと思う。
高浜虚子(ホトトギス派俳人)が、「虚子句集」の序文で、「俳句とは”客観写生”、”花鳥諷詠詩”である。」と説いた。客観写生とは、(心で)発見、(技で)描写(「虚子俳話」)することをいう。そして、花鳥諷詠詩とは、「花鳥諷詠と申しますのは花鳥風月を諷詠するといふことで、一層細密に云へば春夏秋冬四時の移り変わりに依って起る自然界の現象、並びにそれに伴ふ人事界の現象を諷詠するの謂であります。」と書かれている。
こういった自然界の現象と人事界の現象を諷詠する17文字の詩こそが、俳句だということだ。今回は、僕自身花火審査の前に、俳句を吟味し、その情景や情感を思い浮かべていた。
審査結果に基づく順位と僕の講評は、以下のとおりである。
優勝(第1位)
「七夕の 夜に輝く 一夜華(ひとよばな)」
静岡県・イケブン 高橋美帆子
実に一発一発が凝った形状の花火だった。さまざまな形の八方咲き系花火ではあったが、点滅するところが違う花火を5つ仕込まれていた。芯の点滅、芯の周りの点滅、引き先の点滅、親星点滅、小割点滅など創造性が高い「一夜華」だった。工夫が凝らされており、手の込んでいる花火や制作の思いが伝わる秀作だった。
「夜に輝く」と数種の八方咲きとその点滅バリエーションに富む構成に拍手を贈りたい。
準優勝(第2位)
「蛍火が 夜空の河を 渡る時」
秋田県・小松煙火工業 摂津万希子
構成力抜群で挑戦心あふれる花火だった。昇り分火付八重芯万華鏡牡丹点滅という技術力の高い花火からのアピール。点滅で蛍の様を表しているのかと思った。和火のススキ変化星で、天の川を表現。ここまでは、僕が俳句から想起できる内容だった。しかし、最後に大サプライズを仕込んでいた。な、な、なんと「松島」よろしく千輪残光を用意していたのだ。しかも、蛍を吊り物の光星で3回点滅させるという技を駆使した花火だった。まさに蛍を知り尽くした美しい演出だった。吊られた光星が蛍のごとく、光って消え、また光って消え、また光って消えるというマジック系効果を利用したアイディアは白眉だった。審査でメモを取る手が震えるほどの感動を覚えた。見事なまで斬新な挑戦だった。この花火は、「松島」でなければ「田毎の月」でもない摂津万希子が生み出した「蛍火」という新作花火である。ただ、残念ながら吊り物には、リスクが伴う。落下傘の開き具合からか2.3の星が落下した。この部分、減点の対象となった。しかし、「ここまでやるとは、ナイスチャレンジ!」と快哉するほどの花火で、時間と手間暇のかかった労作に彼女の思いが、伝わってくる。「この花火を評価せずして、何を評価する」というベタ誉めの作品であった!
第3位
「七夕に ゆるりと変化 華満月」
秋田県・響屋 齊藤夏樹
響屋の十八番である「フラッシュ」を駆使した意欲作。昇りからフラッシュを使用し、まん丸い牡丹時間差をフラッシュで鋭くキレある花火だった。僕自身としては、講評でも指摘した通り「ゆるりと変化」ではなく「キリリと変化」と俳句の玉名を変えたら、玉名通りだった。フラッシュ自体、ゆるりと変化するはずがない。キレを増し、テンポがよく、キリリと瞬間変化を際立たせるからだ。しかし、芯入り染め分け牡丹時間差フラッシュなど、バリエーションに富む工夫もあり、好感を抱く挑戦だったことには変わりはない。実に目立つインパクトの高い作品だった。
講評では、全作品12作品述べた。厳しく講評するのも、これからもっとよくなってほしいと思う「花火愛」からだと理解してほしい。ここでは、この入賞作以外の気になった作品をピックアップする。
「たなばたに ひと夜限りの 舞踏会」
秋田県・北日本花火興業 鈴木由美子
女心が伝わる秀作だった。構成力の高さ、ストーリー性の演出は、お見事だった。和火から始まった。夜の洋館での舞踏会へ行くの灯篭を想起させるオープニング。八方咲のキラキラ芯は、舞踏会のトキメキ感。ハート芯ピンク千輪点滅には、素敵な男性とのダンスで、恥じらいや照れを表現しているよう。ラストは、素敵にステップを踏み踊る二人を表現するかのように、方向先変化で躍動感を演出した。好感度の高い「恥じらい花火」だった。
「向日葵の 夏のかおりに 魅せられて」
秋田県・和火屋 久米川湖穂
ゆっくりとシンプルに「向日葵」にこだわった作品だった。季語が2つ入り、残念な俳句ではあるが、向日葵の魅力が伝わるわかりやすい花火だった。花火は、単純明快ほど、多くの観衆に伝わるし、理解を深める。そんなシンプル・イズ・ベストというべき作品だった。ラストが、和火屋ならではのお見事な「向日葵千輪」。魅せてくれました!
「七七の日に 夜空のランウェイ 花ひらく」
長野県・信州煙火工業 小川原晃子
信州煙火の伝統である「点滅」をうまくアレンジして、ランウェイ(花道)を作り、花咲かせる構成は見事だった。外周にリング状点滅やススキ先の変化で天の川を想起させ、点滅の余韻を残しながらムーヴィングさせたり、内容の高い花火だった。ただ、俳句の「七七」は、七夕をイメージしたつもりだろうが、国語上は、四十九日を表し、忌日を想起させる恐れがある。
以上の通りの僕の講評をまとめたものだ。
この大会も4回を数えて、より表現力や構成力が良くなってきている。ここまで凝るのかという花火にも出会え、女性花火作家の進化には目を見張るものがある。そして、彼女たちが切磋琢磨し、次の目標に据える決意や意欲が伝わってきた思いである。ますます、この大会は、面白くなりそうだ。
自覚を持って、この大会への思いを込めて、自分自身が企画立案し、玉を作ってほしいと願う。
最後に、表彰式で、受賞者代表であいさつした摂津万希子さんの言葉を紹介しよう。「今回は、時間がない中ではあったが、楽しみながら製作に集中できた。4年間の中で、一番楽しく、玉を作ることができた。試験玉(千輪残光)では、2発しか点滅しなかった。本番の一発勝負に賭けた。16個入りの千輪を5発、計80個花咲かせることができて、ホッとしている。蛍のイメージが伝わっただけでも、達成感がある。吊りもの落下傘もテープ対応せず、手作業で紐を通した。今回の花火は、打ちあがるまで震えていたほどだった。来年に向けて、この作品の完成度を高めていきたい。落下は修業不足と受け止めたい。明日から、来年度のこの大会を目標に頑張っていく」と男勝りにしっかりとした口調で語ってくれた。頼もしく、その姿は美しかった。