秋田の銘酒・食材マリアージュ”オージー・ラムとの出会い in 銀座” |
この催しは、秋田県が「秋田の日本酒」を海外に売り込む輸出促進を進めており、欧米市場に積極的にアプローチしているが、南半球の畜産王国オーストラリアにも今年進出する方向で動いており、その感触を探る意味で東京で開催したものだ。
今回は、オーストラリア産ラム肉と秋田の食材を使用した各種料理と秋田のオーストラリア市場進出に関心を持つ5蔵の自慢の酒とのマッチングとなった。
この話は、昨年の夏から僕にも相談があり、秋田の担当者をワインオーストラリアの手島代表と引き合わせ、手島さんの口利きでオーストラリア大使館商務部を通じてMLA豪州食肉畜産生産者事業団を紹介し、実現できたものと認識している。だから、僕にとっても、この機会を意義のあるものにしてほしく、アドバイスを行った。だから、オーストラリアワインや日本酒にも詳しいA+オーストラリアワイン・スペシャリストの仲間にも声掛けし、参加していただいた。僕らの率直な意見を、秋田県の担当者やオーストラリア関連業者の方にも伝えることで、今後の方向性に寄与できればと思っている。
今回の参加者は、日豪食品関連事業者、商社、食関連メディア、A+オーストラリアワイン・スペシャリストなど約65名である。
今朝のさきがけ新聞では、豪州向け日本酒商談会の模様が記事掲載されていたが、それはマリアージュの会の前に行われていた。これこそが、豪州進出に向けての日本酒メーカーバックアップ事業である。和食の世界文化遺産認定後、日本食を取り巻く食材や技術者にとって、追い風が吹いている。秋田の日本酒メーカーは恵まれた感情にあるといえよう。
さて、本題に戻し、今回の料理と出品された日本酒は次の通り。
オージー・ラム料理は、渋谷・鉢山町の名店「ブラッセリー・アデニア」のオーナーシェフ入江真史氏が制作した3点。
①オージー・ラム「フレンチラックのソテー、白みそとふきのソース菜の花を添えて」
②オージー・ラム「ショートロインのロースト、茄子とフェタチーズのディップ、大葉の香り」
③オージー・ラム「レッグと竹の子の日本酒煮込み、木の芽と共に」
に加え、会場となった「AKITA DINING なまはげ銀座店」の料理長、橋本稔さんの2点。
④オージー・ラム「レッグの朴葉焼き秋田ばっけ味噌」
⑤オージー・ラム「ショートロインの串揚げがっこタルタルソース」
さらに、秋田の伝統料理である
⑥きりたんぽ鍋
⑦秋田オードブル(ハタハタしょっつる干し、ハタハタ寿司、がっこ盛り合わせ)
以上の7種類の料理となった。
この料理に合わせていく日本酒は、5つの蔵元自慢の酒。
①「山本 黒 純米吟醸」(山本合名)
②「まんさくの花 吟丸 純米吟醸」(日の丸醸造)
③「出羽鶴 自然米酒(純米酒) 松倉」(秋田清酒)
④「福小町 純米吟醸」(木村酒造)
⑤「吟子物語 有機純米原酒生酒」(高橋酒造店)
以上の5点の日本酒を合わせていくもの。
今回のマリアージュは、正直言って難しい取り合わせとなった。なぜなら、似たようなテイストの日本酒が多かったからだ。純米吟醸が4種類(松倉も厳密には、このカテゴリーに入る)で、日本酒度や酸度、そして酒質やテイストが近いものが多かったからだ。だから、入江シェフの作るラム料理①と②に関して、合うのは⑤の純米原酒だけだった。このお酒は、アルコール度が高くボリューム感があり、そして唯一酸度が2を超える2.3度、さらにはアミノ酸度も1.4と高く、肉に最適な日本酒であったことは明確だった。
日本酒単体で味わうならば、いずれも素晴らしく滑らかであるのだが、赤身肉の代表格であるラムは、カルニチン、オレイン酸などの必須アミノ酸、鉄、亜鉛、カルシュームなどの含有量が多いため、ある意味では「キレイでなめらかな日本酒」は、残念ながら合うはずがないのである。むしろ、骨格がはっきりしてくる「山廃純米」や「生酛純米」などのつくりをした酒が、赤身肉料理にマッチする。さらにボリューム感のあるアルコール度の高い原酒が、コクと旨味を味わう肉料理には、最適と考える。
そして、僕自身これから海外市場で考えるべきアプローチ法は、水の性質だろうと思う。基本的に、日本の酒を仕込む水は、軟水、超軟水がほとんどである。しかし、数は少ないが、中硬水が存在する。中硬水は、春先は、固く閉じた感覚があるが、熟成を経て味が乗ってくる特性があり、秋以降真価を発揮する。欧米諸国や豪州の水は、基本的に硬水であり、ミネラリーである故、硬水を使用した水には、アドバンティージがあるものと思う。赤身の肉には、ミネラルを感ずるため、硬水で仕込んだ酒は、どこかマッチングするものと思われる。僕自身、秋田の酒では、刈穂や飛良泉といった硬水で仕込む酒蔵の山廃純米などは、最高のマリアージュだろうと思う。
今回、きりたんぽ鍋や和食系のオージー・ラム「ショートロイン串揚げ」には、高品質な純米吟醸系の酒が抜群にマッチしたのは、いうまでもない。
よく、日本酒はすべての料理に合う!と言われているが、必ずしもそうとは言えない。いかに、酒質や特性を考えてワインのように料理に合わせていくことを、常に念頭に入れて提供することだ。そうすれば、「最高のマリアージュ」「「最高の相性」といった表現をされる日本酒が登場していく。宮城に寿司に最高に合う「日高見」という日本酒があるが、はじめから寿司に合う酒質を研究しまくる蔵元の姿勢には、頭が下がる。こうした食とのマッチングを意識した酒造りも、これからの時代必要であり、ウケる要素でもある。
今回、僕の仲間で駆けつけてくれたオーストラリアワイン関係者は、沼田実さん(テイスト&ファン代表)、外岡夫婦(イタリアンレストランtono4122)、小林義明さん(ミナトワイン)の4名。彼らは、いずれも熟練者でありハイレベルな知識を持つスペシャリストである。だから、秋田の担当者や蔵元に建設的で前向きな提言や意見を述べていた。これは刺激的なヒントとして参考になると考える。
沼田さんや外岡潤子さんが、おちょこだけでは、酒の香りや色の輝き、そしてテイストを正しく感ずることができないと指摘。「ワイングラス」でサービスすべきと意見していた。グラスの形状によって、全く感じ方が異なるし、その酒質やタイプに合わせて、グラスを変えて、ワインのようにサービスできると、もっとテイストを理解しやすくなると思う。これからの国際市場に進出するには、こうしたワイン的アプローチが不可欠であると感じたのは、僕だけではない。
今回のイベントに参加して、僕自身改めて日本酒の面白さに気づいた。大変勉強になりました。秋田県うまいもの販売課の菊地氏には、感謝申し上げたいし、今後も専門知識を生かしたアドバイスを続けてまいりたい。