NED GOODWIN MW 「南半球ワインセミナー」 |
MWは、世界に300人くらいしか認定者がおらず、ワインの国際資格として最難関の称号である。日本人は、ネッド・グッドウイン氏ただ一人である。ネッド・グッドウイン氏は、オーストラリア・シドニー生まれ。世界各国でソムリエとして活躍。日本ではグローバルダイニングのシェフ・ソムリエとして名を馳せた。奥様は日本人であり、日本語も堪能。
このセミナーは、山田酒店が12年前から続けている勉強会である。取引先様を中心に、ワインの最新事情を学ぶものだ。業務用酒販店として、ワインの勉強や啓蒙活動を熱心に行っており、共感者が増えていっているそうだ。素晴らしい活動である。
コーディネイターは、山田さんの師匠で、ワイン界や日本酒界でも著名な大橋健一さんだ。大橋さんは、優秀な方であるが、謙虚でしかも勉強熱心で、今や世界を舞台に活躍している。尊敬しあこがれる方である。ワインアドバイザー全国選手権優勝者、著書多数、講演を日本はもとより世界各地でこなす精力的な活動を実践している。今、ジャンシス・ロビンソンMWの著書アトラスの日本編をジャンシス女史より依頼された実力を持つ。
その大橋さんと仲良しのMWの称号を持つネッド・グッドウイン氏が今回のセミナーを担当する。これは、すごいことであり、「日本最高のワイン講義を聴ける」機会であり、時間を捻出して新幹線で盛岡へ向かった。ネッド氏も大橋さんもワインオーストラリアから先月「名誉スペシャリスト」の称号を授与された。僕もスペシャリスト授与のため同席しており、以前からの知人である大橋さんとは、親しくお話をさせていただいた。28日から渡豪するため、最高の事前学習の場になると判断した。
今回のテーマは、「南半球ワインセミナー」。オーストラリアとニュージーランドに焦点を合わせの展開だった。ネッド氏は、日本語も流暢で、基本的には日本語で講演を進める。大橋さんは、コーディネーターとして展開をリード、そしてまとめるという役割に徹する。
テイスティングは、7種類。オーストラリアが4種類、ニュージーランドが3種類。ワインセレクションは、ネッド・グッドウイン氏が自らが立ち上げた「ダイヤモンド酒販」で扱うワインである。ネッド氏は、母国のワインには、愛情があるという。だから、美味しいワインを日本に、世界に紹介していきたいという。
ネッド氏は、「オーストラリアワインは、重く、濃く、少しの甘さすら感ずるワインが多いとの偏見を持たれている」と牽制する。「このようなワインは、最初の一杯目は美味しいが、二杯目以降進まない。ソムリエ的商売的目線で話せば、何杯飲んでも美味しいワインが、一番だ」と語る。試行錯誤の結果、「エレガント系のワインにたどり着いた」という。しかもアルコール度数のあまり高くならないものに。つまり、ボリューム感を感じないバランスのとれたワインが、食事を邪魔しないという利点でも優れているからだ。
今回のワインは、以下の7種類。
①Braemore Semillon 2010 / Thomas Wines (Australia)
僕の大好きなハンター・ヴァレーのセミヨンである。ネッド氏いわく「ハンター・セミヨンはMWの間では尊敬されている素晴らしい白ワイン」と。なぜなら、ハンター・セミヨンのアルコール度数は、11~12度が普通。ミネラル感があり、柑橘系の香りが豊か。しかもアルコール度が低いのに熟成する。熟成すると、より複雑になるからたまらない。
若いセミヨンで、酸が豊か。生牡蠣と最高の相性の白ワインだ。刺身とも合う。これらが熟成すると酵母的な香り、ブリオシュの香りが出てきて複雑感が増してくるという。料理もバターを使用したソースの魚料理と併せたい。ハンター・セミヨンは、こうした顔を持つだけに、おもしろく魅力的だ。小売価格2,880円。
②Chardonnay 2009 / Kidnapper Clifs (NZ)
この生産者Kidnapper Clifsは、クラウディ・ベイの元醸造者。独立してホークス・ベイにワイナリーを設立。カルトな生産者であり、日本での入手は難しい。ネッド氏が取り扱うが、小ロットのみしか流通してくれないレア物である。野生酵母を使用しているため、ブリオシュの香り豊か。ふくらみ感があり、キレイな酸が特徴的だった。NZぽっくないシャルドネであり、旨味が高い。小売価格5,600円。
③Viognier 2006 / Clonakilla (Australia)
ワイナリーが、首都のキャンベラ・ディストリク。ハンターからさらに車で7時間の冷涼エリアに位置する。ヴィオニエは、北ローヌを代表する芳香性の高い白品種。「香りが飛び上がる」特徴があり、すぐに理解できる。ローヌのコンドリューと似ている。品種の特徴として、酸味が少なく、渋みを感じ取れる。骨組みのあるフェノリックなタイプ。アンズ、モモの香り高く、インパクトがある。アルコールも13.5度と高い。お金持ちに人気があるブティックワイナリー。小売価格 4,800円
④Waipara Pinot Noir / The Cratet Rim (NZ)
NZ注目のピノ・ノワールの産地Wipara。チェリーやいちじくの香りが主体だが、濡れた落ち葉の香り=オータムのニュアンスや森の香りがする。石灰質主体の土壌であるため、ピノ・ノワールには最適。少し口にざらつき感はあるものの、エレガントで何杯でも飲める高品質タイプのピノ。複雑な香りも伴い高級感がある。ネッド氏いわく「グローバルダイニング」で、テーブルワインとして取り扱っている」と。これは、間違いなくファンがつくピノだった。
小売価格3,040円
⑤Sweetwater Shiraz 2009 / Thomas Wines (Australia)
土壌は、水はけのよい赤い二重地層。もちろん、ローム層と粘土層、だが、ライムストンも混じる。冷涼地であるがゆえの、エレガントシラーズだ。実際Thomasが作るとさらにエレガント感が増す。アルコール度は、13.2度でシラーズとしては低い。バロッサのシラーズと比べて繊細であり、果実感が高くバランスがいい。香りは、スミレの香りがチェリーの香りを上回る。ネッド氏いわく「これぞ、何杯も飲めるシラーズ」だと。小売価格3,840円
⑥Hilltops Shiraz 2006 / Clonakilla (Australia)
クロナキラのシラーズは、「別世界の味わい」とネッド氏。なぜなら、ほんの少しヴィオニエを混ぜるからだ。まさに、コート・ロティ的造りを実践している。しかし、北ローヌより冷涼であるため、もっと酸が豊かでミディアムタッチに仕上がっている。だから、重くなく軽やかでエレガントなのだ。ヴィオニエを混合しているため、ミントの香りやオリーヴぽいニュアンスすら感ずる。こうした地域の特徴を打ち出せるオーストラリアワインの面白さを感ずることのできるシラーズである。個人的には、お気に入りのタイプのシラーズだ。小売価格3,200円ととてもリーズナブル。コート・ロティではありえないプライス。しかもエレガント!
⑦Cabernet Sauvignon 2009 / kidnapper Clifs (NZ)
甘青い葉っぱの香り、カシスの香り。冷涼地のカベルネは、新世界のイメージを払しょくする。ネッド氏も「これは、ミディアムとフルボディの中間のスタイル。たくさん飲めるカベルネ」と絶賛。あまり強すぎるとつらくなるのがカベルネだが、酸と果実味とボリューム感のバランスが取れていると何杯でもいけると強調。実にバランス感がよく、エレガントできれいなカベルネだった。冷涼地での見本のようなつくりであった小売価格6,400円
以上の7種類をネッド氏のコメントと解説、そして大橋さんがまとめるといったスタイルで展開。最高のワイン講義であり、料飲として「どのようなワインをサービスすればよいのか」といった解答が示されたセミナーだった。
僕を誘ってくれた山田酒店専務の山田隆さんには感謝したい。テーブルごとにも、ネッド氏と大橋さんが巡回する。2,3の質問にも明確な回答。
MWは、世界最難関のワインの資格でありがゆえ、ビジネスやマーケティング的側面まで訴求する。料飲店は、お客様満足を得るために「美味しいおかわりをしたくなるワインを置くことが大前提」、その結果「何杯もワインが販売でき、料理も進む」ということだ。
こうした視点で、料飲店対象のアプローチでの勉強会は、有意義であった。明日から、オーストラリアへ出発するが、さらに視点が広がった。それと同時に、オーストラリア、ニュージーランドの南半球のワインのポテンシャルの高さを実感できた一日だった。