土屋守氏のウイスキーセミナー |
そのパフォーマンスを鑑賞後、秋田市へと向う。
NBA日本バーテンダー協会秋田支部主催の「土屋守氏のウイスキーセミナー」のご案内を「ISOLA」の鈴木真澄さんからいただいていたからだ。バーテンダー協会とソムリエ協会は、友好関係にあり、お互いの主催するセミナーにはお声を掛ける間柄でもある。副支部長の鈴木さんからは、日本ソムリエ協会の会員にもなっていただいている。
今日は、日本におけるウイスキー評論家の第一人者である土屋守氏を招聘しての「ウイスキーセミナー」だ。僕も本棚には、土屋氏の「モルトウイスキー大全」が置いてある。1995年の初版本である。酒にかかわる名著は、ほぼ書棚を探せば出てくる。僕にとってはこの本は、1990年代DS全盛時代「シングルモルト」が伸び始めていた頃の指南書でもあった。
今日のセミナーは、スコッチウイスキー、特にここ10数年間で伸び続けているシングルモルトについて多くの時間が割かれ、その個性の多様性について、映像を通して説明された。映像は、今では懐かしいスライドで映写された。
土屋氏によれば、シングルモルトの個性の多様性のポイントは次の5つ。
①原料麦芽の仕様…大麦品種、ピート
②仕込水と糖化…軟水・硬水、糖化槽の容量と糖化の方法
③発酵とイースト菌
④蒸留…ポットスチルの形状、大きさ、加熱方法、ラインアーム、ミドルカット、2回か3回か
⑤熟成…樽の容量、樽の履歴、オーク材の種類、熟成環境、熟成年
こうした視点から、様々な個性あふれるシングルモルトを見出すことができる。もちろん、スコッチの生産地区の特長も加味される。「海の蒸留」のアイラはアイラならではの風味だったり、「山の蒸留」スペイサイドの濃密さや凝縮感だったりする。あとは、蒸留所の個性や方針、原料や仕込水のタイプ等も反映されていく。
ブレンデッドウイスキーは、20年前は97%を占めていた。5年前は95%。シングルモルトは、3%から5%へ、そして2008年には20%と着実にそのシェアを伸ばしている。実に個性的で面白いからだ。現在132の蒸留所がスコットランドに存在する。
シングルモルトのレクチャー後、お待ちかねのテイスティングに入る。
今回のテイスティングは次の6種類
①Auchentoshan 12Years
ローランドモルト。オーヘントッシャンとは、ゲール語で「野原の片隅」の意。軽くてフローラルで、飲みやすいタイプ。柑橘系のフレバーも感じられ、アペリティフでも使えそうなシングルモルトだ。
②Glenmorangie Original
ハイランドモルト。ゲール語で「大いなる静寂の谷」の意。樽は、アメリカン・ホワイトオーク・バーボンカスク使用。バニラ、ココナッツ、メイプルシロップ、シナモンなどのフレバー。映像で見たように背の高いポットスティル使用。飲んで甘みがあり、キレがいい。スコットランドNO.1の実績を誇る。ルイ・ヴィトン所有となる。
③Highland Park 12Years
アイランズモルト。オークニー諸島のメインランド島にあるスコッチ最北の蒸留所。フォギーと呼ばれる若いピートを混ぜて焚く。とてもパンチがありスパイシー。樽は、ヨロピアンオーク・シェリーカスク使用。シェリー由来の硫黄やなめし皮、硝酸系の香りとともに、ナッテイで複雑そして厚みのあるボディ。イギリスパンでおなじみのマジパンのテイストすら感ずる。ミディアムボディで個性を感ずる面白さのあるシングルモルトだった。
④The Macallan 12YEARS
スペイサイドモルト。シングルモルトを代表する顔でもある。最大の特長は100%スペインのシェリー樽へこだわっていることだ。スパニッシュオークの新樽購入後、シェリー醸造業者に2、3年使用させた後に使用している。その良さを生かすことに徹底している。枝付きレーズンやプルーン等の香りが特長。マッカランは、濃密、凝縮という言葉が似合うと感ずる。つまり、グレンモーレンジの爽やかさや甘さは感じられない。こうした凝縮感ある造りは、長期熟成で真価を発揮する。18年、25年以上で実にまろやかな表情を見せるだろう。ボルドーの第1級格付けワインと同じようなタイプなのかもしれない。
⑤Bruichladdich Peat(46%)
実にスモーキー、ピーティ、雨上がりのキノコの香り、いぶりがっこ等の個性的なフレバー。今までの4種類とは全く違う個性だ。もちろんアイラモルトでアイラ島の埠頭傍に位置する。海のオゾンを感じられる最も個性的なシングルモルトだった。ゲール語で「海辺の丘の斜面」の意。大麦もアイラ産のモノに移行しつつあり、今後も楽しみ。樽の甘み成分をも引き出しており、スモークサーモンやサラミとの相性は抜群だろう。
⑥Johnnie Walker Black 12Years
個性的な5種類の各エリアを代表するシングルモルトを味わった後、ブレンデッドウイスキーの帝王「ジョニー・ウォーカー黒」を試すと、最高にバランスが良く感じる。しかも飲みやすく、すーっと舌に溶け込むスコッチの優等生である。僕としては、最も味わいやすいのだが、やはり没個性。クセモノを味わった最後にこのウイスキーを味わうのは、少し酷である。
土屋守さんの「スコッチウイスキー」に賭ける情熱を感じずにはいられないセミナーだった。僕も少しシングルモルトの世界から離れていたが、今日テイスティングしてみて、またひとつ面白い世界を発見したような衝撃だった。生産地区の違いや樽の性格の違いは、ワインを勉強している者にとっては理解が早い。造り手の個性や醸造方針といったことを知れば知るほど、この世界にも深く足を突っ込みたくなる。日本バーテンダー協会秋田支部のお誘いで顔を出した土屋氏のセミナーは、実に楽しかった。そして勉強になった。感謝したい!
今晩は、本棚から「モルトウイスキー大全」(土屋守著)を取り出し眺めてみたい。