新作花火コレクション 総括 |
新作花火コレクションでは、競技では一切音楽の使用は認めていない。なぜか?それは、音楽の選曲のイメージに花火自体が合うように構成しなければならないからだ。これは、その人のセンスが問われるものでもある。だから、この大会では、新作花火に集中していただく意味で、独自にイメージを深めて欲しいとの思いから、音楽の使用は認めないわけだ。花火の音のリズム感、ピッチも間も花火作家の感性で演出できるのだ。
この大会で、音楽付なのが、インターバル花火とフィナーレ花火。
今回、音楽と演出にこだわった花火に、インターバル花火「感動をありがとう!バンクーバー・オリンピック」のスターマインがある。
この演出は、会場にいた方にはアナウンスメントしたが、「浅田真央VSキムヨナ」の銀盤決戦を表現した内容だった。副題が「仮面舞踊会に現るコリアン・ボンド・ガール」であった。
SPの浅田真央の「仮面舞踊会」に、キムヨナの「007ジェームズ・ボンドのテーマ」が何度も割り込んでくるかのように、この花火のために曲が編集されたものだ。花火上での演出は、赤いコスチュームの浅田真央。青いコスチュームのキムヨナ。赤のステージ。青のステージがその音楽によって明確にし、メリハリをつけた。そして、注目のトリプル・アクセルは、どこで出てきたかというと、ラストの前に、回転しながら昇ってくるように見える立体的なトラで、三回転半。そしてトリプル・ルッツ&トリプル・フリップも連続して立体的トラで回したつもりである。
「ユニークなトラだったよね」という声を終了後言われたが、実は角度をつけて、回転させていたのである。高度なスピンのようにも見えたのかもしれない。
見せ方によっては、フィギュアーのラストのビールマン・スピンなども表現が可能なのかもしれない。ま、わかりやすく演出するとしたら、上空で渦巻状の花火を見せるとか、時差式花火を使ってそのような雰囲気をかもし出すことが出来たのかもしれない。
しかし、史上最高レベルの決戦を花火で表現しようという試みは、製作花火作家も演出側の意図を汲み取り、見事に表現していただいたと思う。印象深い創作花火だった。
フィナーレ花火は、「大曲の花火100年」実行委員会の提供で行われた。新作花火アーカイブスと題し、ここ10年くらいの新作花火コレクションでの印象玉を見せながらのアップテンポな大スターマインだった。ただ、残念なことに、終了間際に風がほとんどなく、煙が会場を覆い、花火が霞む様になったことだ。
名作品としてイケブンの「光のストロボ」、山崎煙火製造所の「ネズミDEチュー」、小松煙火工業の「ランタン」や北日本花火興業の「アフロ」なども炸裂していた花火だった。ただ、こうした名作は、煙が出る前にじっくり見せるべきだった。しかし、ボリューム感の高い贅沢なフィナーレ花火だった。
レセプションで、花火愛好家の方に「もっと有名な花火家を出したら?」といわれたが、僕はそうは思わない。あくまでも日本煙火協会青年部との連携でこの大会が運営されている。若手花火作家が、冬の間苦悩をし、ひとつの作品をこの大会で発表する。彼らは、その製作過程で、何度も試行錯誤を繰り返し、独自の新作に取り組んできた。こうした作業を通じ、若手花火作家も「気づき」「手ごたえ」を感じ、大きく成長していく。そして、競技で多くの作品を見ることで、大きなヒントを得て自社に戻っていくものと思う。業界自体のボトムアップにつながるものと僕は信じている。
最初から、メジャーになれないのである。しかし、目的や目標が明確であるならば、確実に成長し、進化を遂げていくものと思う。こうした若手花火作家のがんばりに期待したいと思う。
レセプション前には、いつも特別審査員によるショート・講演が行われる。今回は、世界の明石康が「世界情勢」について約40分語ってくれた。こうした大物講師の勉強会も用意されているのだ。多くのスポンサーの皆様との交流の場も用意されている。
2次会、3次会で彼らと熱く語ったが、彼らは伝統や歴史に胡坐をかいていない。「独自性をいかに発揮させていくのか」「自社のアイデンティティを確立したい」といった明るい方向性を感じずにはいられなかった。失敗を繰り返しながら、大きく成長していく。そんな花火作家の応援団になりたいものである。
この大会は、そういった趣旨のもとで行われていることを再確認できた夜でもあった。